気象予報士雑感 その1
某国営放送の朝ドラで気象予報士を目指す女性の話が始まったそうです。私自身、気象予報士でもあり、気象庁や民間気象会社の予報の現場で仕事をしていた者としては、とても関心があるのですが、一方で、この手のドラマは脚本家のイメージで「気象予報士」が語られて、現実とはかけ離れた話になってしまうこともあるので心配だったりもします。
気象予報士は気象キャスターじゃない!
世間一般の人が「気象予報士」に持つイメージはまず「気象キャスター」ではないでしょうか? ドラマの予告編でもテレビに良く出ている気象キャスターに影響されて気象予報士を志すという場面が取り上げられていました。気象予報士なら空を見れば10分後の雨を正確に予測できる? 空を見ただけで10分後の雨が正確にわかるなら苦労はしません(笑)。本編でどう描かれているのか興味深いところです。
毎日テレビの天気予報で見る「気象キャスター」の存在は、とても身近で親しみやすく、なかばアイドルのような方もいらっしゃいます。気象キャスターの方の肩書には必ず「気象予報士」と出ているので、「気象予報士」=「気象キャスター」と思うのも自然なことです。ですが実は気象キャスターをやるために「気象予報士」の資格は必要ありません。
気象予報士って?
では「気象予報士」の資格が必要なこととは何でしょう? それは、民間で気象の予測をし、発表するための情報を作成する人に必要な資格です。気象キャスターの中には自ら予報を作成する(作成していた)方もいらっしゃいますが、気象予報士の資格はあるけど、自ら予報を作成したことのない方も多数いらっしゃいます。
気象予報士の資格を取るには、筆記試験に合格すればよく、実務経験は必要ありません。資格取得後に講習等を受けて資格の更新をする必要もありません。こんな経緯から、試験勉強が上手な(暗記が得意な)人は簡単に資格を取ってしまいますが、実際に天気予報ができるわけではなかったりします。
気象予報の仕事をする人
気象予報の仕事をしている人は、実は気象予報士だけではありません。気象予報士はあくまで民間で天気予報をする時に必要な資格なので、気象庁で天気予報を作成している予報官には気象予報士の資格は必要ないのです。もちろん気象庁では庁内で気象に関するあらゆる業務を経験し、天気予報に必要な研修をしっかり受けた上で、相応の実力が認められないと予報官にはなれません。ですから、気象庁の予報官の気象予報に関する知識は気象予報士以上です。
こうした、実際に「天気予報」を作っている人というのは、まずテレビに出ることはありませんし、その仕事ぶりを世間一般の方が見かけることもないので、実に地味な仕事だと思います。気象台の予報課での下積み時代、電話番をしていると、かかってくる電話は予報の問い合わせか苦情ばかりで、感謝の電話がかかって来ることなんてほとんどありませんでした。誰かの役に立つ仕事、そういう実感はあまり得られない仕事だったように思います。
次回予告
次回は民間気象会社のことでも書いてみたいと思います。